米億万長者、学生のローン返済を全額肩代わり 卒業式スピーチで発表

米億万長者、学生のローン返済を全額肩代わり 卒業式スピーチで発表(CNN.co.jp) - Yahoo!ニュース

 

スタンフォード大学でのジョブス、プリンストン大学でのベゾス等、大学の卒業式での感動的なスピーチは数多くある。

しかし、今回のモアハウス大学でのロバート・スミス氏の卒業スピーチほど拍手喝采を浴びたスピーチは過去にあったであろうか。

 

卒業生を前にスミス氏は、「この国で暮らしてきた家族8世代を代表して、あなた方に少しばかりの燃料を注入しよう」と述べ、卒業生396人の学生ローンの返済を代わりに返済することを発表した。

 

デービット・トーマス学長によると、卒業生396人のローンを返済するために必要な資金は最大で4000万ドルとのこと。単純計算で一人当たり10万ドルの学生ローンである。

 

アメリカ学生ローンの問題

今、アメリカでは、学生ローンが社会問題となっている。

大学に進学する学生が増加していることが学生ローン増加が背景にあるが、公立・私立の大学共に授業料が過去最高水準に達していること、学生ローンの金利上昇も大きな要因となっている。

 

アメリカ人(18歳~29歳)が抱える負債の総額は2018年末で1兆ドルに達している。その内約60%がStudent Loan、つまり学生ローンである。

全世代で見ると、学生ローンを借りている人は4400万人を超え、負債総額は1兆5000億ドルに達する。そして、平均借入額は4万ドルを超える状況である。

 

ニューヨーク連邦準備銀行によると、2018年4Qには、学生ローンの滞納額が1660億ドルと、過去最高額に達したとのことである。

そして、未払い負債の約40%が2023年までに債務不履行に陥ると予想している。

因みに、リーマンショック時の住宅ローンの債務不履行が11.5%程度であった。

借入の金額が違うので一概に比較はできないが、非常に高い数字となっている。

 

リーマンショック以降、住宅ローン負債が3.2%しか増えていない一方で、学生ローン負債は102%増えており、2013年と比べると5000億ドル増えている。

 

学生ローンが増えた理由

前項でも記載したが、アメリカの大学費用は他国に例を見ないほど高額である。

2017年度の平均授業料は、

  • 居住州内公立大学では、年間9,970ドル(寮費込み20,770ドル)
  • 居住州外公立大学では、年間25,620ドル(寮費込み36,420ドル)
  • 私立大学では、年間34,740ドル(寮費込み46,950ドル)

であった。それだけ高額となっても、大学卒業によって、将来的な賃金上昇が見込めるため、大学進学をする人がおおい。ただ、それに見合う賃金上昇が見込める人が、どれくらいいるのかは謎である。

 

学生ローン増加によるリスク

オバマ政権時に、学生ローンプラグラムの改善が行われた。

オバマ前大統領も学生ローンの返済に苦しんだ一人であり、43歳まで学生ローンの返済を行っていました。因みに、大統領に就任したのが、47歳の時であるから、就任の4年前まで、学生ローンの返済を行っていたということになる。

この経験から、オバマ大統領は学生ローン事業の改革に力を入れた経緯がある。

過去の政策も含めた学生ローン救済策(IDR)等

  1. 連邦学生ローンの毎月返済額の上限を可処分所得の20%とする(1994年ICR)
  2. 上記の上限を15%とする。(2009年IBR)
  3. 学生ローンの一部を民間が提供する制度を廃止、連邦政府が全額融資(2010年)
  4. 上限を10%とし、20年後にローン残高がある場合、返済を免除(2012年PAYE)
  5. PAYEの条件を緩和(2015年REPAYE)

が提供された。

これらは、借り手の学生にとっては改善の政策である。

最終的には学生のローンが帳消しになる可能性があるのだから。

巷では、借金が帳消しになるのだから、サブプライムのような問題にはならないだろうと言われている。

しかし、最大のリスクは、将来的に連邦政府の財政に多大なダメージを与える可能性が高いということである。

 トランプ政権に移行して、これらの政策は削減の流れとなっているが、学生のリスクとなるか連邦政府のリスクとなるかの違いであると考える。

世間で言われているように、この問題が大きな問題とならないことをを祈るばかりである。

最後に

こういった問題を抱えるアメリカの学生ローン問題に対して、今回のロバート・スミス氏のような行動は素晴らしいの一言である。

今年のモアハウス大学の卒業生は、今回のことを一生忘れることができないであろう。