野村HD赤字転落を考える。
野村ホールディングスが31日発表した2018年4~12月期の連結決算(米国会計基準)は、最終損益が1012億円の赤字(前年同期は1966億円の黒字)だった。米中貿易摩擦の影響で不透明な投資環境が続くなか、顧客の取引が減少し個人営業部門、ホールセール部門ともに落ち込んだ。過去に買収したリーマン・ブラザーズなどののれんについて、814億円の減損損失を計上し大幅赤字に沈んだ。
リーマン・ショックの直撃を受けた08年4~12月期以来の赤字とのことだ。
対面大手5社とネット大手5社で見ても、8社は減益や赤字となっている。大手では、昨年前半業績が好調だったみずほ証券が減益幅が小さく、なんとか踏ん張っている。その他4社は前年比で大幅減益となっている。
ネット大手ではSBIホールディングスと楽天証券が業績を伸ばしている。
この結果を見ると対面証券の必要性の有無を考える必要がある。
ネットの意見をまとめると次の通りだ。
- 対面証券で取引しているのは、情弱のみ
- 口座はネット証券のみでいい
大枠でまとめると、この2点であろうか。
僕は、対面大手5社とネット4社の口座を開設しているが、主に使うのは楽天証券とSBI証券だ。周りの知り合いも、楽天とSBIを使っている人が多い。そういう意味では、この2社の業績が良いのも頷ける。
では、対面証券の必要性は?ネットの声のように、本当にネット証券だけがあれば十分なのであろうか?
現在の対面証券のメインターゲットは、圧倒的資金力があり、ネットに疎い層だ。
つまりはご老人方だ。
僕が証券会社にいた頃も、メイン層は60~70代の超富裕層であった。
将来的には、証券会社全体のメインターゲットはネット世代へと変わっていくであろう。
そうなれば、これまで以上にリテール分野の収益は厳しい状況になっていくだろう。
では、対面証券(リテール)の役割は終わったのだろうか。
答えはノーだ。
なぜなら、リテールの一番の役割は、別に手数料を上げることでないからだ。
一番の役割は、上場企業の資金調達の「手助け」にあると思う。
上場企業の資金調達方法は、主に増資・債券発行・融資である。
いくつか例を見てみたい。
昨年末に上場したピアラ(7044)という会社がある。この会社は、公開価格2,550円、公開枚数合計が484,000株、資金吸収額が1,234,200,000円ほどであった。
主幹事はネット証券大手のSBI証券で、引受割合は85%であった。もちろん、かなりの申し込みがあった様子であり、僕も申し込んだが、抽選に外れた。
小型のIPOはほぼ確実に利益が出せるので、主幹事はどこが務めても、売れ残りはないだろう。
しかし、増資や債券発行の場合はどうだろうか。
例えば、4月募集していたソフトバンクG(9984)の第55回無担保社債はどうだろうか。
利率は1.64%6年満期で、発行額は5000億円である。
この規模になると、ネット証券だけの募集ではまず売れ残ってしまうだろう。
昨年末のソフトバンク(9434)の新規上場の例も見てみたい。公開価格1500円、売出枚数1,603,693,700株、資金吸収額は最大で2兆6460億円である。もはや、天文学的数字である。
これはかなり多くの証券会社で引受があったが、もしネット証券しか世の中になかったら、やはり、かなりの数が売れ残っていたであろう。
しかも、ソフトバンクの不祥事でかなりの数のキャンセルも出ただろうから、ネット証券だけでは、前代未聞の金融事故になっていたと考える。
極端な例かもしれないが、対面証券にしかできない役割があるのである。
AIがでても、証券を使わない資金調達方法が出来ない限り、リテール営業はなくならないだろう。
とは言え、これは個人投資家には関係ない話であるし(投資家から見れば、自分こそが証券会社の顧客という意識だろうが、証券会社からしたら増資等を依頼する企業こそ最重要の顧客である)上でも書いた通り、リテールで稼いでいくことは難しくなっていく。
でも、証券会社としてはリテール部門をなくすことは不可能である。
今後は
- 営業マンの人員を絞り、本当のプロ営業マンのみにする。(証券会社こそ、顧客の資産をいくら増やしたかに連動する、フルコミッションの制度を敷くべきだと思う)
- 顧客も超富裕層により絞っていく(プライベートバンク化)
ことが急務となっていくであろう。
スイスがプライベートバンクで成功したように、日本も金融大国復活を目指し、スイス化を図ることこそが、対面証券大手の生きる道なのであろう。(日本では規制が多すぎて、現状は無理であろうが)